昨晩の『世界のスーパードクター』という番組をみていたら私も知らない『
ヒールオゾン治療』という最先端の
虫歯治療について放送していたのでネットで検索してみました。
以下は東京医科歯科大学の田上先生のご意見です
ヒールオゾンとは
オゾンは、化学式ではO3と表記される気体で、強力な酸化作用があり、このために消毒、漂白、酸化などの目的に用いられています。当然高濃度になれば毒性を示し、呼吸器を侵します。したがって、口腔内はもちろんのこと、使用する室内にもオゾンガスが漏出しないような工夫が必要です。
このような安全面での工夫がなされて実用化されたのが、
ヒールオゾンです。オゾンを作用させるためのハンドピース先端には、シリコーン製のチップを装着します。このチップを歯に密着させて装置を作動させると、まず吸引を始めます。このとき、シールが完全でないとオゾンは発生しません。シールが確認されれば装置が空気を吸入してオゾンを発生させます。そして、2,100ppmのオゾンが毎分615cc作用します。使用中にシールが完全でなくなったりした場合には、ただちにオゾンの発生は中止されます。
操作時間が経過すると10秒間吸引し、すべてのオゾンが回収されて、スタンバイモードに戻ります。使用されなかったオゾンは、すべて触媒式ガス浄化装置に回収され、酸素に分解されてから周囲に放出されます。安全確保のために、また適切な使用のため、6ヵ月ごとの専門家によるメンテナンスが必要です。
◆有効性と安全性
欧米におけるオゾン濃度の許容レベルを、シリコーン製チップの周囲で超えることがないこと、また、オゾンガス自体については、歯周組織由来の細胞や線維芽細胞への為害性がないことが確認されています。
プラークやミュータンス連鎖球菌に対するオゾンの効果も確認されています。口腔内で
ヒールオゾンを用いたときの効果については、う蝕の進行抑制や初期う蝕の逆行性変化という視点で、評価が行われています。たとえば、ダイアグノデントのレーザー光線を応用したう蝕診断装置を用いて、う蝕変化を観察した論文では、う窩の形成されていない小窩裂溝う蝕に
ヒールオゾンを作用させたところ、作用直後でも、その数値が低下したことが報告されています。おそらく、ダイアグノデントの数値は石灰化の程度ではなく、微生物に由来する物質により影響されるため、オゾンによる殺菌効果が即座に現れたものと考えられます。
別の方法(QLF)で、う蝕を定量化して経過を観察した報告では、2ヵ月後に数値が減少しました。すなわち、う蝕が逆行性に変化したことが示されています。殺菌効果により細菌が死滅あるいは減少すれば、当然、う蝕の進行に必要な酸の産生はなくなるか、もしくは減少します。う蝕病巣内の環境は、酸性から中性に移行し、イオンとして存在しているリン酸やカルシウムが再沈着しやすくなります。このためにミネラル成分が増加(再石灰化)して、う蝕の逆行性変化が観察されるものと考えられます。臨床的には、「う蝕が治った」といえるのかもしれません。
同様の結果は、
根面う蝕でもたしかめられていますが、
根面のう蝕ではオゾンが漏出しないように、少し工夫が必要となります。
さらに、窩洞形成が必要なう蝕に際しても、修復前にオゾンを作用させて臨床経過が観察されています。副作用や為害性は認められず、レジンの接着や、グラスアイオノマーセメントの保持にも特段の悪影響は認められていません。
◆臨床での活用法
花田信弘氏らが考案した3DS法による除菌療法に際しても、小窩裂溝部などにオゾンを作用させれば、より迅速な効果が得られると考えられます。また初期う蝕やう窩を形成していない病巣に対して、オゾンにより殺菌を行えば、う蝕の進行抑制、う蝕の再石灰化の促進に有効といえるでしょう。
修復処置に際しては、う蝕除去および窩洞形成のあと、オゾンを作用させることで、窩洞表面だけでなく、窩壁や窩底部歯質の無菌化が、より確実となります。う蝕病巣を適切に除去するのは、修復治療の原則です。総山孝雄氏により確立されたう蝕象牙質外層部のみを除去する方法が、もっとも合理的と考えられますが、それでも窩底部象牙質には細菌が残されている可能性はあります。このような歯質保存的な(MI的)う蝕治療法をさらに高品位化するためのステップとして、
ヒールオゾンの応用は非常に効果的と考えられます。
【参考文献】
1)Edward Lynch : OZONE─The Revolution in Dentistry. Quintessence Publishing, 2004.
田上順次●東京医科歯科大学大学院う蝕制御学分野